インタビュー

塀内夏子さん(漫画家)一人ひとりの英雄体験がある高校サッカー。隣の席の男の子が行く場所はキラキラ輝いている。

1980年代後半〜1990年代、日本サッカーが急速に走り始めた時代に誕生したサッカー漫画の名作『オフサイド』と『Jドリーム』。オフサイドでは高校サッカーを、Jドリームではプロサッカーの世界を描き、今現在も、多くのサッカーファンに愛されている作品を描いた塀内夏子さんに当時の思い出や塀内さんが感じているサッカーへの思いを伺った。

サッカー漫画の代表作ともいえる『オフサイド』は、1988〜89年の高校サッカーが舞台となっています。なぜ高校サッカーを描こうと思ったのですか。
「『オフサイド』は単に好き嫌いだけじゃなく、漫画家として一回り大きくなれるんじゃないかなと思ってまじめに取り組んだ作品でした。ちょうどデビューして手応えをつかんだ頃で(漫画家として)大きなものを書かないといけないなぁと思っていました。サッカーは世界一人口の多いスポーツだから、書けたらすごいな、やりがいがありそうだなって感じていました。当時は、成功したサッカー漫画が『キャプテン翼(高橋陽一著)』くらいしかなかったしね。その中でも、高校サッカーを選んだのは、身近な部活動を描きたかったから。教室で隣にすわっている男の子が行く場所は“キラキラ輝いているよ”っていう感覚や、合宿でみんながさわいでいるような風景を描いていきたかった」
高校サッカーを描く中で一番の魅力に感じたところはどのようなところですか。
「高校サッカーは“身近なもの”。例えば親戚の子がサッカー部で頑張っているとか、席が隣の子がサッカー部にいるとかね。身近なものとしてとらえると微笑ましいし、どんなに弱いチームだったとしても、やることがない子よりはずっと幸せ。私は中学、高校と帰宅部に抵抗があった。学校が終わって、ただ家に帰るだけなのはつまらないしさみしい。でも部活動をしているとクラス以外の人間関係がある。人とのつながりって大切だし、人といればイヤでもしゃべるし仲良くもなる。ケンカもするしね。いいことばかりではないけれど、高校時代にそれをやらなくてどうするのって思う。それに教室以外に自分の居場所があるっていうのは大きい。一生懸命になれるものがあるから、キラキラしているしね」
高校サッカーを見ていた中で印象に残っている場面や選手はいますか。
「100個くらいあるかな(笑)。覚えているのは羽中田昌(現:暁星高校サッカー部コーチ)さん。彼は熊谷五郎(※オフサイドの主人公)のモデルにしたんですよ。まだ漫画を描いていなかった頃の、たぶん一番古い私の中での高校サッカーの記憶で、テレビで選手権を見ていたんですよ。決勝で韮崎と清水東が対戦した時(第61回大会)に羽中田さんが出てきたのね。彼、髪が長くてかっこよかった。それに控えめだったけど引き込まれましたね」
確かに五郎も、控えめだけど情熱的で、引き込まれてしまうキャラクターでした。
「あの頃は控えめなタイプが一番好きだった。中学の頃、サッカー部の同級生が「キャプテンの○○先輩かっこいいよな、靴をこうやって履いているんだよ」ってマネしていたんですよ。男の子の上下の友情や憧れっていうのが新鮮でしたね。だから(漫画の中で)お兄さんみたいな人を描きたかった。今でも、男の子がサッカー選手に憧れる感情って、いいなって思いますよ」
高校サッカーを描く中で、一番伝えたかったことはそういった部分ですか。
塀内夏子さん直筆色紙塀内夏子さん直筆色紙

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「一番伝えたかったのは、一人ひとりの英雄体験かな。例えばサッカーの試合で、一度でも気持ちいい思いができれば、大人になってからもちゃんとやっていけるのだろうなって。だから、それぞれにいいシーンを出したいって、一つ一つ見せ場を作ろうって思っていました。登場人物がたくさんいたけれど、そのキャラのどん底に落ちた時と、そこから這い上がるところを描きたかった」
当時はどのように高校サッカーを見ていましたか?
「『オフサイド』を描いていた当時は、結構見ていましたね。スタジアムに行く時間はあまりなかったけれど、近くでやっている試合はできる限り見ていました。もちろん、全部の試合が面白いわけじゃないけど、見なきゃいけないなと信念を持っていましたね。あとは学校が舞台だったから、知り合いの学校のサッカー部をのぞかせてもらったりもしました」
今後、高校サッカーを題材にした漫画を描くことはないですか。
「当分ないかな。ただ、題材としてユースは面白いと思う。学校からはみ出たユースチームとか。私が『オフサイド』を描いていた頃は、(ユースは)読売(現:東京V)くらいしかなかったのかな。だから学校からはみ出ちゃうとサッカーをできる場所がほとんどなかった。今は、選択肢が増えることがいいのかは分からないけど、Jリーグの下部組織やクラブユースも充実している。以前イタリアに行った時に、上手い子は5、6歳からユベントスやACミランといったクラブでサッカーをしているのを見ました。トップチームと同じユニホームを着られることがとても嬉しいと聞いたことがある。それはいいことだと思うし、すぐそばでトップの選手が見られるというのもいい刺激になる。もちろん学校は学校でいいところもたくさんあると思うんだけどね」
今年ももうすぐ選手権が始まります。最後に塀内さん流の高校サッカーの魅力や楽しみ方を教えてください。
「高校サッカーなら地元のチームを見に行ってみる。だんだん名前や顔を覚えていくし、そうすれば応援にも熱が入って、それが“身近”になる。プロサッカーならば、Jリーグや海外サッカーもテレビで見られるから、それを見て感動する。今は高校サッカーやプロまで、いろいろなサッカーを味わえるのだから本当に幸せなこと。あとは、フットサルとか、実際にプレーをしてみるのも楽しいと思う。施設やクリニックなども充実しているしね」

◎あとがきオフサイドの舞台は1988、89年の選手権。ちょうど今年の高校3年生が、その年に生まれました。『ラインの向こうはキラキラしている』。オフサイドの中で描かれたワンシーンを思い出します。ピッチの中で躍動する選手たちは、塀内さんが語ってくれたように“隣の席の男の子”であり“キラキラ輝く存在”。それは18年前も、今も、決して変わらないもの。塀内さんがオフサイドをこの世に送り出した年に生まれた選手たちが、今度は自分たちの高校サッカーを描きます。今年はどんな大会になるのでしょう。“キラキラ”輝く彼らに出会うのが楽しみです。

塀内夏子(へいうちなつこ)プロフィール 登山、テニス、サッカーなどスポーツを題材にした漫画を描き、『Road』や『涙のバレーボール』など、数々の名作を送り出している。現在は週刊モーニングで『イカロスの山』が好評連載中。サッカー漫画は、高校サッカーの3年間を丁寧に描いた『オフサイド』、Jリーグが発足して間もないプロサッカーをリアルに描いた『Jドリーム』がある。また川崎Fの名誉サポーターでもあり、ポスターやグッズなども手がけている。

協力:ポニーテール企画
インタビュアー:青柳舞子

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