Jリーグ中継統括プロデューサー
金子 尚文氏
スカパー!は全国各地で開催されるJ1J2を全試合生中継している。全試合生中継を実現するために、画面に映る実況や解説、リポーターはもちろんのこと、表には出ない大勢の人たちが関わっている。Jリーグ中継の裏側ではどんな人たちが何をしているのか。スカパー!のJリーグ中継統括プロデューサーの金子尚文氏に、中継制作にかける想いを伺った。
Q:まず「Jリーグ中継統括プロデューサー」の金子さんは、具体的にどんな仕事をしているんですか?
シーズンが始まる前は、放映権の交渉や中継方針を固めて、それを実現する体制を築きます。シーズンが始まってからは「中継方針が実践できているか」「実践するためには何が必要か」といったことを考えながら、状況にあわせて随時施策を打っていきます。大まかにいうと、試合日には中継映像のチェック、これがベースですね。それ以外の日は、よりクオリティの高い中継を行うためのマニュアルづくりや契約書の整備、外部の制作会社との調整などをしています。細かい業務まで挙げるときりがないのですが、サッカー中継をするために必要な仕事を何人かのメンバーで協力しながら進めています。
Q:わずかな人数でJリーグ全試合に対応しているんですね。中継の軸となる今シーズンの中継方針はどのようなものですか?
次の4点を中継方針として掲げています。1:分かりやすいということ
2:選手の魅力が伝わるということ
3:視聴者がワクワクできるということ
4:世界を意識するということ
例えば、「視聴者がワクワクできること」というのは、スタジアムにいるような臨場感を持ってもらいたいということです。昨年の埼玉ダービー(2008年9月21日 大宮vs浦和 @NACK5スタジアム)では、中継をスタジアムの臨場感に近づけるために、実況解説は一切なくサポーターの歌声をベースにしました。視聴者にスタジアムにいるサポーターと同じ音を届けたかったんです。新しいチャレンジだったので、どんな反応があるか心配はあったのですが、視聴者からのメッセージは好意的なものが大半。実施までの調整で色々と大変だったので、その分嬉しかったですね。
Q:家にいながらスタジアムに近い臨場感を味わえるとサポーターはきっと喜びますよね。
ええ。ただ、臨場感は大切ですがスタジアムを超えることはできないので、スタジアムにはないテレビならではの魅力を伝えることにも取り組んでいます。先ほどの話と矛盾するかもしれませんが、一番シンプルな例は、実況や解説ですよね。ルールが曖昧、選手の顔と名前がわからないといった視聴者にはアナウンサーの言葉が大きな意味を持ちます。そうした人たちにもサッカーを分かりやすく、選手の魅力が伝わる情報を映像と一緒に届けたい。
更にワンステップ上を目指すと、試合展開によって選手のプレー、観客の反応が刻々と変化するので、アナウンサーもそれに合わせて話し方を変える必要があります。同じ0-0というスコアでもそれが試合の序盤なのか、終盤なのかによって、サポーターの気持ちは全く違います。終了間際になったら、サポーターのドキドキ感を更に後押しするように実況するなど、伝える側も淡々と話すのではなく、視聴者の心理に合った話し方が必要です。
Q:臨場感とテレビ独自の演出は、相反する面もあるので、バランスを取るのは難しいのではないですか?
そうですね。でも、難しい分だけやりがいもあります。このバランスに加えて、情報を受け取る視聴者の立場からすると、サッカーに詳しい視聴者と、サッカーをあまり知らない視聴者では、中継に求めるものが違います。テレビの向こう側にいるたくさんの視聴者がいます。私たちとしては、一部だけに喜んでもらうのではなく、視聴者全員にサッカー中継を楽しいでもらいたい。このさじ加減をどうするか、制作サイドにとっては大きな課題です。世界のサッカー中継を見渡しても両者に100%満足してもらうサッカー中継がまだ完成しているとは思えません。我々のJリーグ中継では、まだそれぞれ60%くらいしか満足してもらえていないかもしれません。ただ、私たちもはっきりとイメージがあるわけではありませんが、もっとクオリティの高い中継スタイルがきっとあると思うので、視聴者に少しでも満足してもらえるようにそれをこれからも模索していきます。
*後編では、サッカー界で働くことを目指してきた金子氏のキャリアを中心にお届けします。
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