【FC東京 vs 広島】 ウォーミングアップコラム:日本復帰後初の古巣戦 髙萩洋次郎というミニマリストの魅力

2017年4月29日(土)


その右足から放たれたパスは、間隙(かんげき)を縫って寸分違わず行き先へとたどり着く。その効果的かつ、アートなパスに、見る者は感嘆の声を上げる。ファンタジスタと形容されても、納得のプレーをたびたび見せるが、彼は「柿谷曜一朗選手とか、宇佐美貴史選手、乾貴士選手とか、小野伸二選手とかに比べたら、一緒にサッカーやってみて『この人たち、サッカーうまい』って思いますよ。全然違います」と、首を横に振ってこう続けた。

「僕はどちらかというと、 現実主義」

その言葉に近づくにつれ、髙萩洋次郎(写真)というプレーヤーの実像が見えてくる。

ピッチを離れた彼も魅力的だ。長く伸ばした髪はけれん味がない。奇をてらった発言はないが、「なるほど」と膝打つ言葉を吐き出す。

「僕は、どちらかというと、普段の生活も効率良く生きたいタイプ。だから、本当に無駄に走りたくない。それはもう、走らなくていいんだったら走らないほうがいい。そう思うタイプなので。一本の導線を作りたいじゃないですか。1回戻りたくないじゃないですか、できれば。無駄にしたくないので、楽したいので」

「効率的に生きたい」という髙萩は、「全ては準備」だと言う。一本のパスを通すために、無駄をなくす。視野を確保し、体の向きを整え、ボールの置き所にも細心の注意を払う。事前に、受け手となる選手の特長も把握し、「パスとかキックとかは練習も試合もそうですけど、味方の右足、左足、スペース、足元、パススピードを意識している」。そうした背景が、髙萩のあのパスには密に詰まっている。

「特別シュートがうまいとか、めちゃくちゃドリブルができるとか、何か飛び抜けている選手ではない。それを補うためにバランス良く守備もする。攻撃のところでも1人、2人とドリブルでかわすことはできないけど、ボールを動かしたりするということをできるようになっていった。何か一つ武器がある人は、そこを伸ばせばいいかもしれない。ですが、僕にはそういうものはない。すべてをバランス良く伸ばしていかないといけなかった」

「そこに通すのか」と、観衆が沸くパスも「準備しているから、考えているからできることなので」と話す。

少しの謙遜もあるだろう。だが、ピッチ上のミニマリストの言葉には、何とも合点がいく。そして、それは日本復帰後初対戦となる古巣の広島で育まれたものだ。

「広島には、自分勝手な選手はいない。ああいう選手たちじゃないと、あのサッカーはできないし、みんな自分が目立つことよりもチームのバランスと、勝つことを優先している選手が多い。だから、誰かがそっちに行ったら違う方に行くとか。そういう関係性を僕は常に考えていた。誰かが右に行ったら僕は左に行くとか、攻撃の流れで守備の流れで、そっちに行ったらポジションチェンジして おくというのをスムーズに。そういう人のことを、チームのことを考えてプレーできるようにしている」

今季加入からわずかな時間で、FC東京に欠かせない存在となった。練習中から声を絶やさず、チームを向上させようとしてきた。青赤の司令塔と呼ぶに相応しい存在だ。そうしたリーダーシップは、広島を離れたからこそ、身に着いたのだという。

「広島時代はもちろんずっと一緒にやっているメンバーとか戦術というのがあったから、話さなくてもできた部分もあるし、やることがハッキリしていた。広島みたいにボールをしっかり動かして自分たちがボールを保持してというサッカーができない時に、まず何をしないといけないのかは離れてみて気付いた。できていたチームからできないチームに行ったことによって、それをやりたいといってもなかなか1人じゃできない、戦術的にできないので。それをどう消化して、今このチームで自分が何をしなければいけないのかということをまず考えてきた」

何も知らない、意思疎通も難しい海外で培われた処世術だった。両チームのサポーターの視線は、髙萩洋次郎の後を追うだろう。彼が見せる成長の跡、そして変わらぬ魅力的なプレー、追求する綿密に計算されたパスに、味スタはきっと恋に落ちるはずだ。

文:馬場康平(FC東京担当)


明治安田生命J1リーグ 第9節
4月30日(日)15:00KO 味スタ
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