【広島 vs 川崎F】 ウォーミングアップコラム:右腕には固定用のボルトが入ったまま。それでも千葉和彦は、広島のために全力を尽くす

2018年8月18日(土)


パス成功率90%超え。2015年、2016年と千葉和彦(写真)は素晴らしい数字を残している。もちろん、森﨑和幸という95%超えのパスマイスターとのコンビネーションありきではある。だが、90%を超えるパスを成功させ、ミスがほとんどないという選手が最終ラインにいる。この事実こそ、ボールを失わない森保一監督時代のサッカーの原動力であったことは紛れもない事実である。

千葉はどうしてボールを失わないのか。まずはキックの精度がいい。判断の質もいいし、シンキングスピードが速い。だからギリギリまで相手を引きつけ、周りを動かしながら次の手を打つことができる。厳しいプレスに来られても、その厳しさをまるで楽しむかのように、しなやかに身体とボールを動かし、圧力をはがしていく。それは相手のスキを見いだし、そこをピンポイントでつきつつ、ボールを保持できる千葉の戦術的能力ありきである。

「相手が来てくれればくれるほど、やりやすい。裏にスペースができるから」。
かつて千葉は笑いながら、そう語ってくれたことがある。ミハイロ ペトロヴィッチがつくりあげ、森保一が進化させた広島のベーシックは、後ろでボールを回しながら相手を呼び込み、ボールを握りながらも疑似カウンター状態をつくりあげること。そのサッカーの中心にいたのが森﨑和幸と千葉和彦、パス成功率90%超えコンビだった。
時代は、変わった。
「行く川のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず」。
日本3大随筆の1つ「方丈記」の有名な冒頭の言葉である。川の水は絶えず流れ、しかも同じ水ではない。時代が常に動き、同じ状態で止まっていないということを表現した名文だ。
それは広島のチーム状態も同様である。「主導権を握るサッカー」というコンセプトは同じでも、今季は「攻撃」ではなく「守備」でゲームを握る。ボール支配率は最近ようやく、トータルで45%を超えたくらいで一時は45%ラインを切っていた。前節もボールを握っていたのは神戸だったが、シュート数やチャンスの数では広島が上回っていた。いい守備で試合の主導権を握り、チャンスを量産するスタイルになった広島において、千葉は「鉄板」の選手ではない。

実際、開幕前のキャンプにおいて城福浩監督は背番号5を控え組に配し、水本裕貴と野上結貴を重用した。身体能力が高く、スピードや高さ、強さにおいては、この2人のコンビこそ「鉄板」。しかも2人ともパス能力も決して低くない。水本にしても野上にしても、正確なクサビが出せる。千葉のビルドアップ能力は彼らよりもハイレベルではあるが、城福監督は彼よりも彼らを選択していた。
宮崎キャンプの対岡山戦、主力組の攻撃が停滞し、ボールが有効にまわらない。開幕までもう時間もない段階での難しい状況を打開しようと指揮官は千葉を投入する。すると彼を中心にボールが生き物のように動き始め、チャンスも量産し得点も重ねた。圧巻のパフォーマンスを見せ付けた彼を城福監督が主力組に引きあげ、開幕のスタメンに起用したのだ。

その開幕・札幌戦でもし、千葉が接触プレーで右腕を骨折して離脱しなかったとしたら、広島はどういう状況になっていただろう。ここまでの結果は出せていたのか。わからない。もっとポジティブだったかもしれないし、ネガティブかもしれない。神様だけが知っている。ただ、確かなことは、開幕時に1度ひっくり返した自分の立場が、元に戻ったということだ。それだけではない。水本は30代になってさらなる成長を遂げ、野上は彼に足りなかった本物の自信を身につけて日本代表の呼び声もかかるようになった。2人が先発でコンビを組んだ中断前の14試合で9試合完封、8失点。圧倒的な記録である。
普通は、焦る。自分がいない時に負けても責任を感じるが、圧倒的な戦績を残されてしまうと「戻る場所があるのか」と考えるのが通常だ。もちろん、千葉とて人間である。焦りがあったかなかったかと言われれば、それはあったはずだ。だが、彼はリハビリ中も含め、1度もそういう苛立ちを見せたことがない。少なくとも周りに対しては。
6月18日、全体練習に復帰した千葉に、こんな質問を投げかけた。
「自分がいない間にこれほど勝つなんて、選手として複雑な気持ちには」。
彼は笑った。
「離脱していた間、チームが勝っていたことは嬉しい。負けるよりも勝っている方が成長のスピードは早いと思うしね。自分がその成長の渦の中に入っていけないことは悔しいけれど、首位にいることは純粋に喜ばしいです。もちろん、プレーできないもどかしさはありましたが、それを考えてもしょうがない。今、自分にできることを100パーセントに近いところまでできるか、そこを考えてましたね」。

復帰してパーフェクトな状態だったかといえば、それは違うだろう。2試合連続ゴールがあった一方で、PKも与えた。だが、常にチームのことを考え、チームのために闘い、チームのために走る。たとえ試合に出られなくても、ベンチで、ベンチの外でチームを鼓舞する。そういう姿を常に見せるからこそ、千葉和彦は尊敬を集める。

イニエスタのスーパーゴールが話題を呼んだ神戸戦、彼は同期生・水本裕貴の負傷を受けて交代で入り、しっかりと神戸の攻撃を抑えて失点0で試合をクローズさせた。「ポジティブに勝点1を捉えたい」という千葉の視線の先には、2位・川崎Fとの直接対決がある。骨折した右腕にはまだ固定用のボルトが入っていて、それを取り出すのはシーズンオフになるという。完璧な身体というわけではない。だがそれでも、経験豊富なベテランは前年王者の破壊力を跳ね返すべく、ピッチに立つ。全ては、チームのために。

文:中野和也(広島担当)


明治安田生命J1リーグ 第23節
8月19日(日)19:00KO Eスタ
サンフレッチェ広島 vs 川崎フロンターレ
エディオンスタジアム広島(サンフレッチェ広島)
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