【広島 vs 名古屋】 ウォーミングアップコラム:空前絶後のチームプレーヤー。偉大なるドクトルカズ=森﨑和幸ホームラストマッチ。

2018年11月23日(金)


例えば佐藤寿人は、ゴールを奪うことにかけては不世出といっていい、偉大なストライカーだ。青山敏弘の正確無比なロングパスを象徴とするボランチとしての攻撃力は歴史的に類を見ない。高萩洋次郎のアイディアに満ちたプレーの連続性も、駒野友一の精密な左右両足でのクロスも、サイド・トップ下・ボランチのそれぞれでハイクオリティなプレーを見せた森﨑浩司のマルチロールぶりも含め、広島の歴史は素晴らしい選手たちが煌めく星座の趣すらある。

ただ広島の星座には1つだけ、強烈な光を放つ彼らとは全く違う色彩を持った星がある。燦々と燃えさかる炎を身にまとった、太陽のような存在ではない。渋さが深まった銀のような色合いを持ちながら、他の星たちの光が増幅するのを手助けする深みを持った色彩を空に加えてくれる。そういう星が現実の空にあるのかどうかは、わからない。だが、森﨑和幸という名選手をあえて何かに例えようとすれば、そんな表現になるのだろうか。スポーツでも芸術でも他の分野でも、真に偉大な人物を語ろうとする時、自分自身の才能や技術がその存在に追いついていけないことが、嫌になる。

森﨑和幸はサッカーの専門家ですら、その凄さが見えにくい選手だ。2012年、広島が初優勝した年のベストイレブンに彼が選出されなかった時、森保一監督(当時。現日本代表監督)は「何故だ」と激怒した。選出は選手や監督の投票をもとにして行われており、いわばプロフェッショナルの意志。しかし、そこに指揮官は異を唱えた。森﨑和幸なくして優勝はありえなかったという気持ちの表れだ。

城福浩監督は「技術だけでなく、試合の流れを高いレベルで感じることのできる類い稀な選手。彼の事情(年齢や慢性疲労症候群という難病との戦い)がなければ、引退しないでほしいと彼に訴えたはず。つくづく、彼と一緒にもう少し、戦いたかった」と。さらにユース時代から森﨑を見つめてきた小野剛元広島監督(現日本サッカー協会技術委員)は「引退を決めた後、電話で『剛さんのおかげで、ここまでやれた』と言ってくれましたが、彼は僕自身を指導者として成長させてくれた選手だった」と語った。

ミハイロ・ペトロヴィッチは就任前にビデオで森﨑和幸のプレーを見てすぐに「特別な選手だ」と感じた。慢性疲労症候群による長期離脱(その後、合計5度にわたり、彼は長期離脱を繰りかえし、その都度に戻ってきた)から復帰を果たした森﨑に、復帰直後でまだコンディションがあがらない彼に対して厚い信頼を寄せ、「ドクトルカズ」とそのクレバーさを讃えた。実際、Jリーグを席巻した「ミシャシステム」は森﨑和幸が「可変システム」を発案したことで改良が加えられ、広島の栄冠や浦和・札幌の躍進へと繋がった。森﨑の存在はJリーグ、日本サッカー界に大きな影響を与えたと言っていい。

柏木陽介や李忠成、槙野智章(以上浦和)ら、広島でプレーする日本代表選手たちがそろって口にする日本屈指の技術の高さ。水本裕貴や山岸智は「球際の強さはJリーグナンバー1」と語り、工藤壮人は「相手が立ち上がれないほど強烈かつ深いタックルなのにファールではない」と舌を巻いた。浅野拓磨(ハノーファー)が衝撃を受けたというボール奪取能力の高さ。千葉和彦が「全てにおいてミスがない」と語ったが、それを証明する95%というパス成功率(2015年。その他の年でもほとんどが90%台のパス成功率)。「カズさんのところで守備が完結し、カズさんのところから攻撃がスタートする」という青山は「困った時はいつもカズさんの話を聞く。誰もが頼っている」と傑出したリーダーシップの存在を指摘した。それほどの選手が、ベストイレブンにも日本代表にも選ばれない。それはきっと、塩谷司(アルアイン)の言葉が象徴的だろう。

「カズさんの素晴らしさ、凄さは、一緒にプレーしないとわからない。カズさんとプレーすると気持ちよくプレーできる。そういう感覚は、よほどサッカーがわかっていないと外からでは理解できない」

2015年のクラブワールドカップ、アフリカ代表のマゼンベを3−0で破った時、マン・オブ・ザ・マッチは得点もアシストもない森﨑和幸が選ばれた。塩谷が言う「カズさんとなら気持ちよくプレーできる」というプレーの本質を見抜いた選考であり、森﨑和幸という本物のチームプレーヤーが正当に評価された初めての瞬間だったと言える。周りの選手を輝かせ、サポートし、力を引き出すことにかけて森﨑と同質のプレーができるのは長谷部誠くらいしか思いつかないが、歴代最高の日本代表キャプテンと言われた長谷部と比較しても「全く劣っていない」と城福監督は指摘する。

どんなにハイパワーなエンジンでもオイルがないと焦げ付いて使いものにならない。森﨑和幸とは、極上のオイルのような存在だった。確かに目立たない。しかし、絶対的に必要不可欠。そういう存在を正当に評価し、正当にリスペクトする視点があって初めて、チームスポーツたるサッカーの成長がある。広島の3度の優勝は、森崎がフルに活躍した年とイコールである。それが、サッカーというスポーツの本質的な一面を証明しているではないか。

「まだ引退の実感はない。明日はチームが勝利することしか考えていないし、勝利するために自分ができることをやっていく」

J史上最高レベルのチームプレーヤーらしい、森﨑和幸の試合前日の言葉だ。そんな彼をリスペクトし「カズさんのために」と決意を胸に秘める選手と、広島で生まれ育ち、広島一筋で戦ってきた我が街のヒーローとの惜別に涙を流すサポーターと。明日のエディオンスタジアム広島は背番号8に対する想いの束が支配する。

文:中野和也(広島担当)


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11月24日(土)14:00KO Eスタ
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