【横浜FC vs 東京V】 横浜FC側ウォーミングアップコラム:選手の特性を発揮させることこそが戦術——。笑顔絶やさぬ勝負師、タヴァレス監督の流儀

2018年12月1日(土)


とらえどころのない、というよりも、あまりにも器が大きすぎるのかもしれないと思わされるときがある。横浜FCを率いるエジソン アラウージョ タヴァレス(写真)監督のことだ。

普通の監督の場合、目指すサッカーや戦術について大枠のところは話してくれるが、細かい部分は話さないことが多い。監督歴36年になる62歳のブラジル人指揮官の場合はその逆で、細部には答えてくれることもあるが、大枠のところはいつもはぐらかされるか、禅問答のようになってしまうのだ。

シーズン開幕直前、「目指すサッカー」について聞かれた際は、「本当に良いシステムというのは、『どういうシステムでやっているのか、誰も分からない』システム。誰がどこにいるのか分からないような。それが自分のコンセプトであり、目指すサッカー」と答えた。そしてシーズン終盤に「理想のサッカー」について聞かれた際は、「自分の理想は、選手の特性に見合ったスタイルでやること。シーズン初めは4-2-3-1でスタートしたが、今は変わっている。選手の特性を生かすことを一番に考えてそうなった」と答えている。どうやら『ポゼッション』とか、『縦に速い』といった、指揮官のやりたいサッカーよりも、あくまで選手の特性が発揮されることが優先らしい。「『やりたい』というのと『できる』というのはまた別のことだよ」と、ニッコリ笑ってポンと肩をたたく。まるでジェダイマスターに「若いの、答えを急ぎなさんな」と言われているような気持ちになるのだ。

選手たちもそのチーム作りには「正直、最初は戸惑った」(佐藤謙介)という。「僕らにも『俺のサッカーはこうだ』というのは示さない。うまくいかないとき、チームとして帰る場所はどこなんだろう?という部分はあった。だから選手同士で話し合ってやるしかなかった」と。ベテラン守護神の南雄太も「良くも悪くも、(戦術的に)何も与えてくれないので(笑)。あえてそういうやり方なんだと思うけど、選手がいろんな話をして、修正しながらチームを作ってきた。そこが一体感にすごくつながっている」と話す。日本人の特性として、戦術を与えられると、それを守ることだけに意識がとらわれてしまうところはあるだろう。第32節のアウェイ東京V戦では、選手の判断で前半途中にフォーメーションを5-3-2から4-4-2に変更した。「自分たちで判断して、動くこと」(戸島章)がチームに浸透している。

ただしそのやり方はとてつもないギャンブルで、よほど指揮官自身が自分の指導力に自信を持ち、優秀なスタッフがいて、選手の能力を信頼していないとできることではない。自動昇格まであと一歩の3位にまで躍進した選手たちを讃えると同時に、その賭けに勝った(勝ちつつある)タヴァレス監督をも讃えるべきだろう。

南は、「あの人はすごく運のいい監督だと思う」とも言った。実際、今年のチームはただの一度も連敗をしていない。ばかりか、“ここを落とすと厳しい”という試合にことごとく勝ってきた。3戦勝ちなし(1分2敗)で迎えた第34節のアウェイ千葉戦では、ほぼボールを握られて劣勢の試合をワンチャンスでものにした。第40節、当時の首位・大分との直接対決ではイバが出場停止のピンチだったが、リーグ最多得点の大分を相手に引いて守らず、逆にワントップに入った戸島とボランチに起用した瀬沼で前線からプレッシャーをかける策に出て完勝した。この順位は、そうした賭けに概ね勝ち続けた結果である。

いつも会うたびに笑顔を絶やさず、敬虔なクリスチャンでもある。勝利するとベンチの椅子に突っ伏して神に感謝の祈りを捧げるが、その強運には神様がついているからだろうか。本人は「間違いなく神の助けによる」というが、この人に接しているとやはり不思議な人徳というものも感じずにはいられない。ホーム最終戦のセレモニーに恒例の監督スピーチも、2年連続でマイクの前に立つことを拒否した。いわく、「チームというのは選手が主役。自分は前に出るべき存在ではない」という。「監督というのは、チームに与える影響力は5〜10%くらいしかないもんだ」と、またジェダイマスターの顔でニッコリ笑うのである。

それでも来日した1年前と比べると随分お痩せになり、福々しかった笑顔にやや険しさも感じる。笑顔の下に、間違いなく勝負師の顔がある。ここまでの苦労、プレッシャーも相当なものだったろう。リーグ最終戦の前、健康を心配する記者に対して、「苦労? プレッシャー? ないない(笑)。日本食のおかげか、すごく健康的な食事をいただいてるので。1週間マックを食べたら元に戻るよ(笑)」と笑い飛ばした。

そういえばいつかの大一番の試合前に、「次の試合をどう戦うつもりか?」と詰め寄る記者に、「いま私の頭に浮かんでいるのはだね……」と重々しく語り出し、何を言い出すかと思ったら「バルバッコア(シュラスコ専門店)でウェルダンの肉を食べて、山盛りのポテトフライを食べることだよ。和田町のマクドナルドでもいいんだけどね(笑)」と、大いに脱力させられたことを思い出した。バルバッコアでもマクドナルドでも、目標を達成したオフには昨年の来日時よりも体重を増やしてブラジルに帰っていただきたいものである。

文:芥川和久(横浜FC担当)


J1参入プレーオフ 2回戦
12月2日(日)13:00KO ニッパツ
横浜FC vs 東京ヴェルディ
ニッパツ三ツ沢球技場(横浜FC)
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