【横浜FC vs 仙台】燻り続けた天才の覚醒なるか?“遅刻魔”を返上してチームを引っ張る松浦拓弥

2020年7月11日(土)



横浜FCが13年ぶりにJ1復帰した今季、シーズンの幕開けはニッパツ三ツ沢球技場で行われたYBCルヴァンカップ第1節だった。結果は0−2でアウェイの広島が勝利したが、下平 隆宏監督が「レベルが違うなと感じた」と試合後に振り返ったように、苦しいシーズンになることを予想せざるを得ない、スコア以上の完敗だった。
三ツ沢球技場はその構造上、記者の動線と選手の動線が重なる部分が多い。番記者として今季の暗い未来を想像し、重苦しい気持ちで記者席から階段を降りてロビーに出たところ、同じように肩を落としてピッチから引き上げる選手たちとタイミングが重なった。
その時、意外な光景を見た。
ベンチに入れずスタンドから試合を見守っていた松浦拓弥が選手たちを出迎え、小柄な体で一人ひとり肩を抱き寄せ、背中を叩いて鼓舞していたのだ。「大丈夫だ! 負けたからって問題ないぞ!」「俺たちはやれる! 下を向くな!」。そんな声が聞こえた気がした。それだけ、あのときの松浦は真剣で、いい顔をしていた。

意外というのは、そういうことをするタイプの選手だとは思わなかったからだ。
横浜FCに昨季加入し、その実績と実力は疑いようもなかったが、長く所属した磐田時代、ピッチ外での評判は芳しいものではなかった。遅刻癖は有名で、実際に昨季序盤にも出場が続いた後にいきなりベンチ外になったのは、遅刻が原因だったと後に聞いた。
天才肌というか、天衣無縫。素晴らしい活躍をした試合があったかと思えば、まるでダメな試合もある。遅刻癖も直らなかった。昨季の8月、天皇杯3回戦の横浜FM戦を最後に公式戦出場が途絶えたのは、度重なる規律違反によって下平監督の構想から外れたためだった。チームは自動昇格に向けて上昇気流に乗っている中で、完全に干されていた。ただ、もともと飄々としたタイプだけに、練習場で見かけても特に腐っているという雰囲気でもなく、ありのまま運命を受け入れているように見えた。

だからこそ、ルヴァンカップ初戦後の彼は意外だった。仲間を励ますために、あれほど感情をむき出しにする選手だとは思わなかったから。何となく、今年の彼は違うのかなという予感を持った。
実際、広島戦をスタンドから眺めながら、松浦はこう感じていたという。
「広島はJ1でも上位のチームだし、試合運びの上手さは感じた。でもチャンスもあったし、決めるべきときに決めてればというのがあったから、そんなに(差はない)と思った」
松浦自身、前々節の札幌戦でJ1出場200試合を達成した経験豊富な選手だ。その彼がそうやって出迎えたことが、J1初挑戦に敗れた仲間たちをどれだけ勇気づけたことだろう。
1週間後のJ1開幕戦、先発でこそなかったがベンチ入りし、途中出場も果たした。そして新型コロナウィルスの影響による中断期間を経て、彼は2試合とも先発しほぼフル出場。前節の柏戦では1ゴール1アシストとMVP級の活躍で、チームに今季J1初勝利をもたらした。「大丈夫! 俺たちはやれる」と(言っていたかは知らないが)仲間を鼓舞したあの日を、自分自身で見事に証明してみせた。

今節、ホームに迎えるのは仙台。彼が磐田時代の2008年、J1J2入れ替え戦を戦った相手だ。高卒2年目、19歳の若きトップ下は、2試合で3得点を挙げてチームを降格危機から救った。ただ、彼の立ち位置というのはそこからあまり変わっておらず、時おり素晴らしい活躍はするものの主力となるほどの信頼をチームから勝ち得たことはない。そもそも遅刻魔が遅刻をしなくなったからといって、それはごく普通になっただけのこと。その“ごく普通”ができていれば、今もまだ磐田の主力として400試合出場くらいは達成しているか、海外でプレーしているだろう。それだけのサッカーセンスの持ち主であり、だからこそ惜しいが、大活躍するかと思えば全然ダメな試合もあって、規律違反で丸坊主になったり干されたり、その全部を含めて松浦 拓弥という選手の魅力でもある。

人間がそう簡単に変わったり、心を入れ替えたりするなんてことはないだろうと冷めた気持ちの一方で、「彼は本当に変わった。プライベートから含めて、今年1年が勝負という意気込みでサッカーに真剣に打ち込んでいる」という下平監督の評価を信じたい気持ちもある。そう思わせるだけの熱さが、あのルヴァン初戦の日の松浦にはあった。だからこの仙台戦、かつて彼が一躍日本中のサッカーファンにその存在を知らしめた相手に、彼が本当に変わったと思わせてくれるような“何か”を楽しみに試合を眺めたい。


文:芥川和久(横浜FC担当)


明治安田生命J1リーグ 第4節
7月12日(日)18:00KO ニッパツ
横浜FC vs ベガルタ仙台
ニッパツ三ツ沢球技場(横浜FC)
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